2024.12.17

スマホの普及で生活者とキャラクターとの接点はどう変化したか|マンガキャラクター活用の極意【第二部】

今年も残り一カ月、すっかり師走の忙しさです。福井もいよいよ雪の季節が到来して、通勤通学が大変な時期に突入します。
去る11月17日、関西学院大学で開催された日本広告学会・第55回全国大会の自由論題報告で、「Z世代向けエンドーサーとしてのタレント、キャラクター、YouTuber、VTuberの可能性比較」を発表してきました。
この報告は、前回までC-Station連載で紹介した内容がベースとなっており、来年には次回のキャラクター定量調査結果をふまえて論文化する予定です。お聞きいただいた皆さん、ありがとうございました。

2024年11月17日 関西学院大学 西宮上ケ原キャンパス

2024年11月17日 関西学院大学 西宮上ケ原キャンパス(筆者撮影)

前回は、Z世代での「タレント・有名人」「キャラクター」「YouTuber」「VTuber」のエンドーサー(Endorser:広告内で製品やブランドを宣伝する人)としての効果と可能性について、エンドーサーの魅力度アップや、エンドーサーが推奨する商品への興味や購入喚起にはどんな変数が効くのか、エンドーサータイプによる各因子間の因果関係の違いを、SEM(構造方程式モデリング)を使って紹介しました。要点は以下の通りです。

  • エンドーサーへの「憧れ」や「共感・感情移入」が、商品への興味につながりやすい
  • タレント:男子は「誠実・信頼できる」、女子は「憧れ」で商品への関心が高まる
  • キャラクター:男子は「誠実・信頼できる」、女子は「自分と似ている」で商品への関心が高まる
  • YouTuber:男子は「憧れ」、女子は「自分と似ている」で商品への関心が高まる
  • VTuber:男子は「専門性がある」で商品への関心が高まる

今回は近日中に実施予定の「2025年キャラクター定量調査」に向けた予備分析として、キャラクターと生活者との接点のトレンド変化について、時系列でご紹介します。

最も多い接点はLINEスタンプ、動画サイトやSNSも上位に

図表1は、携帯電話所有者におけるスマートフォン比率の時系列推移です。2010年には日本国内でのスマートフォン比率はわずか4%でしたが、2015年には5割を突破、2021年には9割を超えて、2024年には97%にまで達しています。

図表1. 携帯電話所有者におけるスマートフォン比率の時系列推移

携帯電話所有者におけるスマートフォン比率の時系列推移

※NTTドコモ モバイル社会研究所「2024年一般向けモバイル動向調査」(全国・15~79歳男女)結果をグラフ化 

このような急激なメディア環境の変化が、マンガ・アニメ・デジタルなどのキャラクター接点にどのような影響を及ぼしたのか、キャラクター定量調査結果の時系列比較により確認しました。
図表2は、現時点の最新データである2024年2月調査の男女3-74歳全体の結果です。

図表2. キャラクター関連接点 (2024年2月:男女3-74歳全体)

キャラクター関連接点 (2024年2月:男女3-74歳全体)

『あなたがふだん、お好きなキャラクターや気になるキャラクターと接することが多いのはどれですか』の質問に対して「かなり当てはまる」+「まあ当てはまる」計が40%以上だったのは、「LINEなどのスタンプ(40.9%)」と「おもちゃ・ぬいぐるみ・フィギュア・人形(40.1%)」で、一般的にはスマホを使う機会が少ないはずのキッズやシニアを含めた全年代でLINEスタンプがトップになっている点が目を引きます。

また、「地上波のテレビアニメ・特撮番組(36.0%)」や「マンガ雑誌・コミックス・単行本(30.0%)」などの従来の接点と比べて、「Youtube、TikTok、ニコニコ動画などの動画投稿サイト(33.9%)」「X(旧Twitter)やfacebook、InstagramなどのSNSサービス(29.3%)」「Netflix、Amazonビデオ、Hulu、dアニメストアなどの動画配信サービス(26.3%)」などのデジタル接点が遜色ないスコアになっている点も興味深いです。

接点の主役はテレビアニメからLINEスタンプへ

そこで、いつからこのような傾向になったのか、2010年、2014年、2020年、2024年のスコアと比較しました(図表3)。
左図が従来の接点、右図が最近のデジタル接点です。なお、2010年は調査対象者が男女3-59歳だったため、揃えて集計しています。

図表3. 従来vsデジタル キャラクター関連接点:時系列比較(男女3-74歳全体)

従来vsデジタルキャラクター関連接点:時系列比較(男女3-74歳全体)

この14年間で、「地上波のテレビアニメ・特撮番組」をはじめ、「地上波のテレビCM」「地上波で放送した映画」も含めたテレビコンテンツや、「マンガ雑誌・コミックス・単行本」「DVD・BD・ビデオソフト」など、マンガ・アニメのストーリーを楽しめる従来型プラットフォームの接触が軒並み減少しています。
一方、「LINEなどのスタンプ」「動画投稿サイト」「SNSサービス」「動画配信サービス」の増加傾向は明らかです。ちなみに、2010年調査で「LINEスタンプ」「動画配信サービス」は測定外でした。

これらの結果から、コロナ禍で自宅に籠ることを強いられた2020年頃に、ユビキタス性(いつでもどこでも)やインタラクティブ性(対話・双方向)などの利点を実感した生活者によって、テレビアニメなどの従来型プラットフォームからLINEスタンプ・動画投稿サイトなどのデジタルプラットフォームへと接点の主役が交代した様子が窺えます。

男性若年層ではデジタル関連の接点が顕著に増加

次に男性年代別に2010年、2014年、2020年、2024年のキャラクター接点に関するスコアを比較しました(図表4)。

図表4. 従来vsデジタル キャラクター関連接点:時系列比較(男性・年代別)

従来vsデジタルキャラクター関連接点:時系列比較(男性・年代別:1)従来vsデジタルキャラクター関連接点:時系列比較(男性・年代別:2)

かつては圧倒的に高い接点だった、男子園児・小学生での「地上波のテレビアニメ・特撮番組」「地上波のテレビCM」、男子中学生-19歳と男20-34歳での「地上波のテレビアニメ・特撮番組」「マンガ雑誌・コミックス・単行本」が、いずれも大きく減少しており、その減少の度合いは男子園児・小学生で顕著です。

一方、「動画投稿サイト」「LINEなどのスタンプ」「SNSサービス」「動画配信サービス」などのデジタル接点は、男子園児・小学生や男子中学生-19歳で大きく増加しており、男35-49歳でも増加中です。
ただ、男20-34歳では2014年に急激増加するも、2024年にはいずれも落ち着いており、これら新しもの好きの年代にとって一般的な接点として定着したのか、それともいわゆるデジタル疲れの層が増えてきたのか、気になるところです。

なお、男子園児・小学生ではデジタル接点のスコアが増加中ながらも、テレビアニメやテレビCMなどの従来からの接点にはまだ追い付いていません。


女子ティーンではマンガ雑誌・コミックス・単行本への接触がV字回復

続いて、女性年代別に2010年、2014年、2020年、2024年のキャラクター接点に関するスコアを比較しました(図表5)。

図表5. 従来vsデジタルキャラクター関連接点:時系列比較(女性・年代別)

従来vsデジタルキャラクター関連接点:時系列比較(女性・年代別:1)従来vsデジタルキャラクター関連接点:時系列比較(女性・年代別:2)
男子ほどではありませんが、優位な接点だった女子園児・小学生での「地上波のテレビアニメ・特撮番組」「地上波のテレビCM」、女子中学生-19歳と女20-34歳での「地上波のテレビアニメ・特撮番組」「マンガ雑誌・コミックス・単行本」が、いずれも大きく減少しており、減少度合いはこちらも女子園児・小学生で顕著です。

そのような中、女子中学生-19歳では2020年と比べて「マンガ雑誌・コミックス・単行本」のスコアが大きく増加して、V字回復の傾向を示しています。男子を追い抜くレベルに達しており、この勢いが今後も続くか要注目です。

一方、「LINEなどのスタンプ」「動画投稿サイト」「SNSサービス」「動画配信サービス」などのデジタル接点は、女子園児・小学生や女子中学生-19歳で大きく増加し、特にLINEスタンプは女子中学生-19歳以上の各年代で圧倒的な伸びを示しています。女子園児・小学生では、LINEスタンプや動画投稿サイトが既にテレビアニメやマンガを追い抜いており、今後どこまで伸びるか注目されます。

今回は以上です。
次回は、2025年キャラクター定量調査の速報として、純粋想起によるキャラクター好意度ランキングを紹介します。今回記したキャラクター関連接点の2025年版スコアも、準備ができ次第紹介します。どうぞお楽しみに。

<第2部 バックナンバー>
第29回:タレント・キャラクター・YouTuber・Vtuberの「Z世代向けエンドーサー(宣伝マン)」としての可能性を分析する(4)
第29回:タレント・キャラクター・YouTuber・Vtuberの「Z世代向けエンドーサー(宣伝マン)」としての可能性を分析する(3)
第28回:タレント・キャラクター・YouTuber・Vtuberの「Z世代向けエンドーサー(宣伝マン)」としての可能性を分析する(2)
第27回:タレント・キャラクター・YouTuber・Vtuberの「Z世代向けエンドーサー(宣伝マン)」としての可能性を分析する

第26回:《2024年調査》キャラクター・YouTuber・Vtuberのエンドーサー(宣伝マン)としての可能性を分析する

第25回:《2024年調査》 YouTuber・VTuberファンの、マンガ・アニメ・キャラクターへの反応を分析する
第24回:《2024年調査》 タレントタイプ別ファンの、マンガ・アニメ・キャラクターへの反応を分析する
第23回:《2024年調査》 各キャラクターの支持層から、どのような反応が期待できるかを分析する
第22回:《2024年調査》 キャラクターの最新人気ランキングとその支持層
第21回:コロナ禍の前後で、キャラクター関連への「好意度」はどう変化したか
第20回:コロナ禍の前後で、キャラクター関連への接触はどう変化したか
第19回:地域によって異なる? キャラクターやマンガへの好意度と関連行動(3)
第18回:地域によって異なる? キャラクターやマンガへの好意度と関連行動(2)
第17回:地域によって異なる? キャラクターやマンガへの好意度と関連行動(1)
第16回:調査で解明する、エンドーサー(宣伝マン)としてのキャラクターの可能性(3)
第15回:調査で解明する、エンドーサー(宣伝マン)としてのキャラクターの可能性(2)

第14回:調査で解明する、エンドーサー(宣伝マン)としてのキャラクターの可能性(1)
第13回:純粋想起による2023年の好意度ランキング(ご当地キャラ&タレント・有名人&Vtuber編)
第12回:純粋想起による2023年の好意度ランキング(キャラクター全般&企業キャラ編)
第11回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(3)
第10回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(2)
第9回:さまざまなタイプのキャラクターファンが、どのようなプロフィールを持つのか分析する(1)
第8回:2023年トレンド予測・キャラクター活用は5つの流れで進む
第7回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第6回:拡がるVtuberの活動領域とその実像を分析する(前編)
第5回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(後編)
第4回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(中編)
第3回:Z世代のマンガ原作コンテンツへの支持傾向と消費行動(前編)
第2回:ティーン・ヤング層に人気のマンガは、ターゲットにどんな体験を提供するか
第1回:男子ティーン・ヤング中心に人気のマンガコンテンツ。女子ティーンからコアな支持を集める作品も

<第1部 バックナンバー>
第1部 連載記事一覧

筆者プロフィール
野澤 智行(のざわ ともゆき)

栃木県宇都宮市出身。1987年千葉大学文学部卒業、(株)ビデオリサーチ入社。98年旭通信社(現ADKグループ)入社、研究開発部門、マーケティング部門で広告効果やブランディングの研究、企業のマーケティング・プロモーション支援を、キャラクター総研リーダーとしてアニメコンテンツの戦略支援、キャラクターに関する開発・活用提案を行う。2013年に日本百貨店協会主催「ご当地キャラ総選挙」実行委員として、企画立案およびキャンペーン・イベント総指揮を担当。デジタルハリウッド大学院で客員教授を、駒澤大学や福井工業大学で講師を務め、法政大学経営大学院でMBAを取得して、キャラクターやアニメコンテンツに関する企画提案・分析業務でも活動中。2022年4月からは、福井工業大学の環境情報学部経営情報学科でマーケティングやメディア論の教授として着任。

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